各航空会社の自社養成パイロット募集要項が発表され、来年度も恵まれていることにライセンサー採用も含め日本国内では数百人規模での訓練生採用がありそうです。
この時期になるとパイロット志望の方々から、「どのような人がパイロットに向いているのか」と聞かれることがよくあります。
TwitterやInstagramなどのSNSで各人が同様の質問に対してよく答えていますが、SNS上では次のような回答を頻繁に見ますし、このような投稿が多くのいいねやLikeされるのをよく見ます。
このような投稿を見るたびに、実生活でこんな綺麗事を並べるナルシストとは関わりたくないと思いながら、強めにiphoneの画面を叩いてtwitterの画面を閉じます。
先の投稿について感じるところを述べますと、
採用から訓練、審査まで幾多の試験審査に継続的に合格さえできれば、努力ができなくてもエアラインパイロットになれます
頭の良いパイロット、才能のあるパイロット、センスのあるパイロットが採用されやすいし、そのようなパイロットに責任の重い仕事を担ってもらうべきです
あなたの頑張りはどうでもいいので、訓練審査を順調にこなしてください
といったところです。
他人の意見についてあれこれ言ってもしょうがないので、ここからは最近私が思うパイロットという職業における適性を思いついた順に挙げます。
適性1 健康
深夜も含むシフト勤務、高ストレス、低圧、加速度、紫外線など体に悪影響を及ぼすような環境の中で、不整脈、メラノーマ、ポリープなどにより、本当に多くのパイロットが病気になって地上に降りていくのを目にしますし、パイロットは早死にするという噂も聞きます。
また、不健康な状態は自らの健康を害するだけでなく、パイロットに蓄積した疲労が航空事故の原因となり多くの乗員乗客の命を奪う可能性にも繋がります。(Colgan Air Flight 3407)
飲酒やジョギング、テニス、読書などによるストレスマネジメント、栄養バランスの取れた食生活などの各人での健康維持は、パイロット以外の人にとっても重要ではありますが、特に航空身体検査に合格し続けないと仕事のできないパイロットにとっては必須の適性でしょう。
適性2 要領の良さ
目標を正しく見極めて、その目標を達成するために何をすべきで何をすべきでないかを見極めて、すべきことを実行して目標を達成することです。
パイロットに最低限求められているのは、ライセンス維持だと考えています。ライセンスを維持しているならば、最低限の運航を行うことが出来ると考えているからです。より安全な運航、より快適な運航、より経済的な運航を目指すことはプラスαの部分だと思います。
ライセンスを維持するためには、審査に合格し続ける必要があります。航空業界の審査は、試験内容が事前に決まっていることがほとんどです。参考までに航空従事者等学科試験の過去問を見てみましょう。
ある試験で高得点を取る必要があり、過去問と同じ問題が出題されているのならば、まずは過去問を解けるようにするべきですし、さらに配点の多い問題から解けるようにするのが一般的に効率的でしょう。教科書や類似問題集を1ページ目から最終ページまで何周も通したり、単語帳を最初のページから暗記していくのは非効率的です。
空港が見えていて早く着陸したいならCancel IFRやVisual Approachをすべきで、そのためにBaseに適切なConfigurationで入るためには何をするべきか考えるべきで、わざわざchart通りにSTARからapproachを飛ぶ必要はありません。
適性3 正直
分からないことがあれば分からないと言うこと、知っているかと聞かれて知っていれば知っていると言うこと、コクピット内で疑問点があるのならば疑問のままにせず聞くことです。
簡単なように思われるかもしれませんが、分かりませんと言ったら馬鹿っぽく聞こえてしまい周囲からの評価が下がってしまったり、ライバルに知っていることを教えたら優位に立てなくなってしまったりといったことを考えてしまい、多くの人にとってはそう簡単ではありません。
これは適性2と被るのですが、一体何をするために飛行機に乗務しているのかを想像すると自ずと正直になってくると思います。安全な管制官の指示が分からなかったら尋ねるべきですし、同期が困っていたら助けるべきですし、コクピット内の作業は共通認識を持って行うべきです。
適性4 簡単な四則演算の速さ
Ground Speedに5を掛けたり、残燃料と計画との差を求めたり、目的地のETA算出のために時間の足し算をしたり、6度1割をしたりと、コクピット内で簡単な四則演算をする機会が多いので、特にVFR navigationなどの初期課程では計算が早くて正確であることで得られるメリットは大きいです。
適性5 英語力
日本国内を飛んでいるときですら管制官とのやり取りは日本語英語とはいえ英語ですし、国際線を飛ぶようになったらその地方訛りの英語でのやり取りですし、大手以外の航空会社には間違いなく外国人のパイロットが在籍しています。よくTOEIC何点あれば良いですかと聞かれますが、990点あっても足りないです。他人の英語を聞き返したり、他人が理解するのを苦労するような英語を喋って迷惑を掛けるのは、あまりにもコミュニケーションコストが高過ぎるでしょう。
これから採用試験を受ける人に伝えたいパイロットに求められる適性を思いつくままに書き連ねてきましたが、パッと思いつくのがこのぐらいなのでこの辺りで筆を止めたいと思います。これらの適性について全く気にせず自然に身についているような人たちもいますし、自分の要領の悪さやpoorな英語力で他人に迷惑をかけたりして日々努力する人たちもいますし、適当に仕事して家でハイボールとポテチをきめるような人たちもいるので、これから採用試験を受けるような未来のパイロットの方々は、頭がよく才能があってセンスがあるようなパイロットを目指してみたらいかがでしょうか。